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那覇家庭裁判所 昭和51年(少)81号 決定 1976年4月05日

少年 S・O(昭三一・四・五生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

一  本件申請の要旨は本人は昭和五〇年二月七日自動車窃盗等保護事件により、当裁判所で中等少年院送致の決定を受け、同年二月一〇日沖縄少年院に収容され同五一年四月四日をもつて、満二〇歳に達するので退院させなければならないが、本人は同五一年三月六日午後四時一〇分ころ、隣室の少年から自分の陰茎へ玉を挿入することを頼まれ、少年の陰茎に玉を入れようとしているところを職員に発見され同月一三日謹慎五日、減点一二点、一級下への降級の処分を受ける結果となつた。したがつてこのような規律違反は未だ本人が充分に矯正されていない自主性に欠けた雰囲気に左右され易い性格や誘惑に負け易い本人の性格の現われでもあつて本人を現在の状態で満年令退院させることは本人の将来の社会生活にも不安が予想されるので少くとも二ヶ月の収容継続が必要である。

二  当裁判所の判断

本人に対する昭和五〇年少第二六号、同五〇年少第四六号保護事件記録、少年調査票並びに同院分類保護課長○間○永、同教官○舎○朝○の意見および本人、保護者らの各陳述によつて本件を綜合すると

(1)  本人は上記のとおり昭和五〇年二月一〇日沖縄少年院に収容され、当初のほどは家族の面会がないとのことで一時精神的な動揺が見られたが、その後家族が定期的に面会するようになつて落ちついた生活を送るようになつて以来昭和五〇年五月一七日に同室の者と通称天国遊び(頸動脈を押えて一時意識を朦朧状態にすること)をして課長説論を受けたこと、日常生活で担当職員から軽い注意を受けた以外には規律違反行為もなく、院内成績も一級上まで進級した。

(2)  少年は性格的には意思薄弱で自主性に乏しく、やや他律的な面もあつてあまり目立たない存在であるが、指示されたことや、定められたことは一応責任をもつて果し、特に職業補導(溶接科)では意欲的で技能面も相当の進歩が認められ、同五一年一月九日一級上に進級し、同月二八日仮退院申請、同五一年三月一九日仮退院許可がなされて退院日が決まつていた。

(3)  ところが上記の規律違反行為のため謹慎五日、一級下への降級の処分を受ける結果となつて上記仮退院許可は取消決定になつたことが認められる。

三  ところで上記各資料によると、本人はたしかに指摘のとおり性格的には入院以来の矯正教育や本人自身の努力などによつてかなりの改善がなされており、現時点で指摘される点といえば被誘惑性が強いといつたものであるが、これとても本件申請の理由となつた規律違反行為の態様からしてさほどの大きな偏倚とはいえない。本人は院内で天国遊びで課長説論を受けたことや、日常生活で担当職員から軽い注意を受けた以外は規律違反行為もなく、院内において指示されたことや、決められたことは責任をもつて果しており、とりわけ職業補導の面では意欲的に取組んで技能面でも相当な進歩が認められており、本人も今後とも頑張りたい旨決意を述べ早期退院を心待ちしている。また、家族間でも次兄を中心に保護者らの受入態勢を本人がいつ退院してきても応じられるように住居・就職などの諸準備がなされており、さらに本人と実母、継父との感情的関係も次兄を中心としてまとまりを見せつつあることなどが認められる。

本人に対する今回申請の発端となつた規律違反行為に対しての措置は謹慎五日、単独寮移寮、減点降級といつた院内処分にとどまらず既定の仮退院許可決定の取消しにまでおよんでおり、また本人においても反則を犯したのだから退院期間の延長はやむを得ないが延長期間をまじめに頑張つていくつもりですと述べている。

以上のような事情に鑑みれば本人の社会復帰については未だ十分に矯正されたとはいい難いが本人を向う「二ヶ月間」の収容を継続するよりか、むしろ、本人の退院後の自主的努力によつて漸次改善されてしかるべきものと考えられる。またこれ以上収容を継続したからといつて短期間に特段の効果が期待できるものとも考えられず、むしろ本件のような事情のもとでは収容継続によつて自暴自棄になるなど逆効果の出るおそれの方が大である。

よつて本人については、収容を継続すべき理由は認められないので、本件収容継続申請は、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 前鹿川金三)

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